ドーパミンと意欲の関連性について

 スタンフォード大学の教授がドーパミンの影響と振る舞いについて興味深い言説を行っていた。

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 要は、快楽や万能感にはドーパミンが大きく関与しているものの、それらは常に続くものではなくシーソーのように逆の揺り戻しがあるというものだ。

 しかも大きな多幸感のスパイクに対する揺れ戻しは、ドーパミン分泌レベルの標準値を大きく割り込み沈み込んでいくように作用するとのことである。さらに、ドーパミン分泌量が多い=より大きく長い幸福感であればあるほど、沈み込みのレベルも比例して大きく長くなっていくという。つまりどんな気持ちよさを味わおうと全体としてみれば絶対値として差し引き0に向けて体がバランスをとるように作用するようにできており、まさにホメオスタシスというところである。

 彼女の説によると、この仕組みは太古の人類の行動や進化上の選択と淘汰に深くかかわっているとのことで、つまり「空腹や疲労、欠乏などストレスがかかっている状態=ドーパミンレベルが低い状態」が普通であるような環境で、「ドーパミンレベルを標準値に戻す=報酬を見るけるための主体的な行動」に向けられた個体が生き残った結果だという。

 ここまでが基本の考え方であり、対して現代では様々な刺激等々によりドーパミンレベルが人間が本来処理しきれないレベルにまで常に高まっている状態であり、ホメオスタシスが逆に働くことで鬱や燃え尽き等の精神疾患やネガティブな行動の原因となっている。また同時に、何とか高ドーパミンレベルを維持しようとする渇望がいわば中毒症状を引き起こすことで様々な衝動的な行動や感情につながっているのだという。

 これは個人の体験と照らし合わせても膝を打たずにはいられない。例えば、結果を残したすぐ次の試合でなぜか全く気持ちが付いてこないようなシチュエーションである。これは直近でもあった話で、難易度の高い試合で勝利を続けていたものの、普段の慣れ親しんだトーナメントで全く気持ちが入らなくて結果につながらない、といった話だ。

 ではどうすればよいか?環境を太古のような厳しい環境状態に180度変えるという事は勿論現実的ではない。彼女はこの体の仕組みをハックしていくことが重要と唱える。

対談者:「つまり逆に考えれば、快楽を得るためには、意図的に体やメンタルヘルスに苦痛を与えればいい。そうすればグレムリンが今度は逆側に飛び移って快楽をもたらしてくれると?」

 

教授:「まずは中毒性のある物質を避ける事。使用する場合には適度に、感覚を十分い空けて、グレムリンが飛び跳ねてホメオスタシスの回復が行われるようにすることです。」

「他には意図的にバランスの苦痛側を刺激することもできます。エクササイズをするとか、冷たい水に浸かるとか、断続的なファスティングをするとか、そのほかの禁欲的なことをするとか。」

「そして苦痛の側に圧力をかけると、グレムリンは快楽側に飛び移ります。」

「先に代償を払うことで、間接的にドーパミンの放出を得るのです」

 纏めると、

 「苦痛を先に与えてバランスをとることが、ドーパミンレベルを適正に保つカギとなる。結果、正常な幸福感しいては競技であればメンタルパフォーマンス維持につながる。」

 と結論付けられる。にわかには信じがたいことであるが、考えてみれば古今東西の宗教者の禁欲であったり断食の文化が連綿と残っていたり、最近では美容健康法などを通じた実践者や一定以上の支持が集まっているところを見ると、蓋然性はあるように思う。

 そして物は試しという事で、さっそく朝冷水を浴びつつ、トレーニングの強度も高めにする試みを実践してみた。まだ2回目であるが、身体感覚の変化やメンタルの変化、競技のパフォーマンスの変化について継続的に検証していく。